スクロールすんべ
幸志郎の哲学を知る
自然に生きる 其の参
大丈夫、その雪は
俺が融かしてみせるから
北の大地の北東、オホーツクに面した湧別町。ここには、ヤワな都会っ子じゃたちまち逃げ出したくなるような厳しい冬が、確かにある。遥か北の海から押し寄せる巨大な流氷に、ひと晩で道路を覆い尽くす雪、凍てつく頬に追い打ちをかけるかのように吹き付ける北風……。そのどれもが圧倒的。ゆえに、ここで人は知る、本当の強さと、やさしさを。今、西村幸志郎はその胸のうちに熱を抱えながら、仕事と、人と向き合っている。やがてくる、春を信じながら。
厳しい冬を恨んだことは、
一度もない
幸志郎「冬がなかったらいいのになんて、一度も考えたことはないかな」
寒風にさざめく鈍色のサロマ湖畔に立ち、幸志郎はそうつぶやく。その視線の先には押し寄せる無数の流氷をしっかりと抱き止め、ホタテやカキなど、地元の養殖業を流氷被害から守るアイスブームがあった。
幸志郎「これだって冬が厳しいオホーツクにいなければ生まれかった技術だよね。それに、米袋をソリにして雪遊びをしたり、雪に光が反射して夜でも明るかったり、子どもの頃から冬は結構楽しい思い出の方が多い」
そう言って懐かしそうに笑った。
変えられないものと、
変えられるものと
地球は丸い、空は青い、母の手は温かい。
このまちで育った幸志郎にとって冬の厳しさもまた、それらと同じくらい当たり前すぎることだった。だから、向き合う術は、その体にしっかりと染み付いている。
幸志郎「自然をなんとかしようなんて思わない。できるのは、備えたり、対処したりする人間側の工夫だけ」
冬の海を現場とする今、その想いはさらに強くなっている。
幸志郎「しっかりと準備すれば、寒い時期だって変わりなく工事はできる。もちろん、事故が起これば命に直結するから、安全確認はいつも以上に」
変えられないことには抗わず、変えられることは後悔のないように。北の海で生きるルールは、すなわち人生そのもののようだ。
春は、
すぐそこまで来ている
変えられないことと、変えられること。ならば、周囲の人たちの心はどうか、と問うと幸志郎は迷わずに答えた。
幸志郎「人の心は、変えられると思う」
幸志郎が入社して間もない頃、西村組社内にはある種の閉塞感にも似た空気が漂っていたという。一人ひとりの見ている景色が異なり、ともに仕事に取り組んでも「1+1」以上のパワーが生まれない。そんな環境を目の当たりにして、幸志郎は自らが先陣を切って会社の理念やビジョンを今一度確かめるというプロジェクトを立ち上げた。そして、その成果は着実に実を結び、働く人の顔や声が、明るく変わりはじめている。
幸志郎「人の心に土足で入ることは決してしない。だけど、ノックは躊躇わずにしたい。それで、ドアを開いてくれたら、たくさん話して仲間になって。今、まさにそんな状態だね」
環境が悪いと文句を言っても、何もはじまらない。その先にある希望を信じながら、できることを一つひとつ、丁寧に。冬の海を前にして、幸志郎は思う。西村組の春のはじまりは、もうすぐだ。